フランス陸軍参謀本部付のユダヤ系フランス人アルフレッド・ドレフュス大尉は軍法会議での終身刑という判決により、仏領ギアナ沖合に浮かぶサリュ列島の一つである悪魔島(Île de Diable)へ送られ、1895年4月30日に独房に収監されました。そこで彼は、劣悪な環境や粗末な食事に耐えながら、妻リュシー(と息子ピエールや娘ジャンヌ)を気遣う手紙を書き続けます。島を離れたのは1899年6月9日でした。そのドレフュスに言及される場面が、Collin Higgins が書いた最初のシナリオで、映画化(もノヴェライズもされた)された Harold and Maude (1971) にあります。ヨーロッパで華やかな青春を過ごした亡命貴族で、アウシュヴィッツ収容所に収監されたこともある80歳の老女モード(マチルダ・シャルダン伯爵夫人)が、死にとり憑かれている19歳のアメリカ人青年ハロルドにこう語るのです。「ドレフェスは悪魔島から the most glorious birds を見たと手紙に書いたの。でも何年も経ってからブルターニュでそれが seagulls に過ぎなかったと識るの」。これが事実なのか虚構なのかはモードが畸人という設定なので分かりませんし、ブルターニュや大西洋のカモメと地中海のそれが同じかどうかも知りません。しかし、地中海の沿岸や島嶼の諸都市を巡る現地版のギリシアの旅行では、カモメが旅の仲間になることが屢々あります。
『オデュッセイア』第5歌でオデュッセウスは、ある孤島に−−−ドレフユス大尉と違って−−−なに不自由なく暮らしているばかりか永遠の生を約束されているにも拘らず、故郷イタケへの帰還と妻ペネロペイアと息子テレマコスとの再会を願い続けています。その英雄−−−夫として、父として、また老齢の父の子として、つまりひとりの人間として生を全うしたいと願う−−−英雄を7年間の拘束から解き放すようにというゼウスの命令を、孤島の主である女神カリュプソに届けるべく急ぐのは伝令ヘルメスです。その姿が、波の上を疾走するカモメに喩えられます。モード女史には失礼ながら(Pace Maude)、たんなる seagulls が the most glorious birds であり得ることを、英雄的でないふつうのライフが最も光輝くライフであり得ることを教えてくれるのが、ギリシアの古典(の一部)であり、現地版ではないので旅の仲間であるカモメたちも同伴しませんが、このオンライン版ギリシア旅行でも、そうした消息を学んでいただけるのではないかと庶幾しております。 荒井直(CPS事務局)
記
日 時 2025年7月5日(土) 14時「出発」
司 会 佐野 好則
案 内 役 川島 重成
主たる訪問地 アテネ、クレタ、ミュケナイ、オリュンピア、デルフィ、
特にケルキュラ、イタケを含む北部ギリシア
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