NEWS

榊原晴子新著『アメリカから見たシベリア抑留』

米国カリフォルニア大学デイビス校名誉講師でICU同窓生の榊原晴子さん(ID74)は、2025年5月22日に行われた吉川元偉ICU特別招聘教授(DAY賞受賞者)の授業(公開講座)にてご講演いただきました。

< 新刊紹介 >

「アメリカから見たシベリア抑留」-  榊原(大島)晴子
The Post WWII Incarceration of Japanese in Soviet Concentration Camps
Intercultural Observations Written in the US with a Comparative View of the Incarceration of Japanese-Americans in the US

小鳥遊書房 定価3000円 ISBN978-4-86780-061-4

皆さんの身近に「シベリア抑留」体験者はいらっしゃいませんか? もう現在ではその生存者は90歳を超え、数えるほどになってきています。そして、抑留者自身が沈黙を強いられたため、家族でさえもその詳細は何も聞いていないことが多いのです。こうして、この大切な歴史は、学校で習うこともなく、語られる機会を失ってきました。

終戦直後の1945年8月、ソ連は日ソ中立条約を破って、満洲、北朝鮮、樺太、千島に侵攻し、多大な犠牲者が出ました。そして、スターリンの極秘指令9898により、ソ連は約57万5千人の日本の軍人と民間人を旧ソ連とモンゴルの広大な地域に拉致して労働を強制しました。抑留期間は数年間から11年間。自由を剥奪された日本人は飢餓と、毎日ノルマに追われる零下50度にもなる厳寒での労働を強制されましたーーこれがシベリア抑留の概略です。

日系アメリカ人と結婚して渡米し、戦争中に生じた「日系収容」の犠牲者である日系人の歴史を知った私は、戦争が罪のない市民にもたらす悲しみにじかに触れて来ました。そして、夫の家族が経験した日系収容と私の叔父が経験したシベリア抑留が「日本人が経験した抑留」という共通点を持つことに注目し、本書の構想を練りました。本書の特徴は、歴史家ではない普通の人間が「知ろうとして調べ、考えたことの集積だ」と言えるでしょう。ただ、40年に及ぶ教室での教育活動と体験は重要な背景となりました。

本書は、若い方々に読みやすいようにカリフォルニアでの暮らしから入り、この史実の伝承プロジェクトがどのようにたくさんの後押しを得て可能になったのかを紹介してから、本題であるシベリア抑留者の苦難の歴史、抑留者の直面した諸問題や女性の抑留者に焦点を当てています。抑留者の次世代の経験から学ぶ「家族の証言」の章では、現在ICU特別招聘教授の吉川元偉先生にも寄稿して頂きました。多くの貴重な「深堀」の研究書がある中で、本書は一般に手に取りやすく読みやすい、教科書的な要素が注目されています。英訳も予定しています。

なお、本書の執筆に先立ってhttp://Japaneseinsiberia.ucdavis.edu が日英両語のwebサイトとして2020年に公開されており、現在246,000回の閲覧回数となっています。サイトの「吉田勇絵画集」の絵には当時の様子が克明に描かれています。是非ご覧ください。

カリフォルニア大学デイビス
東アジア言語文化学科名誉講
榊原(大島)晴子 1974年言語学科卒