アナトリア(トルコ)のポントス地⽅、イリス川(現イェシル川)沿いの都市アマセイア(現アマスヤ)出⾝の地誌学者で『地誌 Geographicon 』全17巻を著したストラボン(前64−後21年以後)はこう豪語しています*。「わたしどもは(東から)⻄の⽅へはアルメニア地⽅からテュレニア海のサルド島(現サルデーニャ島)⼀帯の諸地域まで、(北から)南⽅へは⿊海からエチオピア地⽅の境界地域まで、をそれぞれに訪れた。しかも、地理を記述した⼈びとの内でどこにもせよわたしどもが訪れた上記の区域よりも広い地域を訪れたことのある⼈はほかにひとりとして⾒つかることはあるまい。」と。
今回の川島先⽣と⾏く「オンライン・ギリシア旅⾏」は、ギリシア⽂化をある距離をもって省みて考えるべく、ヒッタイト、ビザンティン、オスマン・トルコなどさまざまな⽂明が重層的に展開したアナトリアを再訪します。もちろんストラボンたちほど広域ではありませんが、今年の9⽉15⽇から約14⽇間、アンカラ、アマスヤといった内陸の都市や、「⽝」と呼ばれた哲学者ディオゲネスが亡命以前に住んでいたスィノップ、トラブゾンなどの⿊海沿岸の都市、そして遺跡や博物館などを訪れます(⿊海沿岸の都市は海という原初の「⾃然」と港という⼈間の「⽂明」の架構物が触れ合っている興味深い場です)。川島先⽣とその同⾏者たちの旅には、ストラボンたちの学術的調査旅⾏とは違って、「巡礼」の趣があるような気がします。巡礼者とはそのラテン語 peregrinus の原義「異邦⼈、祖国を離れて彷徨う者」によるなら、エルサレムやメッカなど特定の聖地を⽬指す者のではなく、⾃分の祖国ではない⼟地を(基本的には歩いて)移動し続ける者の謂でしょう**。その短期間集中的巡礼の途上で「⾃分たちが地上ではよそ者であり、仮住まいの者であること」(ヘブライ⼈への⼿紙11:13)をおぼろげながら⾃覚する瞬間があったりするのではないでしょうか。ストラボンが『地誌』執筆にあたり⾃分⾃⾝で実地に旅をしただけでなく他の旅⼈の報告を聞いて学んだことは次の⾔葉からも明らかです。「⽬で⾒た⼈びとだけが真に知っていると⾒なす⼈は⽿で聞くことを真実性の基準から排除するが、聞くことこそ知識を得る⼒としては⽬よりもはるかに優れている」**。このオンライン旅⾏で、厳選された写真とともに川島先⽣の説明を「⽿で聞く」⼈は、リピーターであれ初めての視聴者であれ、学べることが多々あることは間違いないでしょう。
荒井直(CPS事務局)
* ストラボン(飯尾都⼈訳)『ギリシア・ローマ世界地誌 I 』(⿓渓書舎 1994年), 199⾴.
** フレデリック・グロ(⾕⼝亜沙⼦訳)『歩くという哲学』(⼭と渓⾕社 2025年), 218⾴参照.
記
⽇ 時 2025年12⽉7⽇(⽇) 14時「出発」
司 会 佐野 好則
案 内 役 川島 重成
主な訪問地 イスタンブール、サランボル、アンカラ、ハットゥシャシュ、ヤズルカヤ、
アラジャホユック、アマスヤ、スィノップ、サムスン、トラブゾンなど。
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